『企業不祥事を防ぐ』
著者名:國廣 正 著
発行日:2019年10月21日
発行元:日本経済新聞出版
ページ数:324ページ
価格:1,870円(税込)
法務に役立つ度:★★★★☆
1.本書の紹介
日本経済新聞社「2018年企業が選ぶ弁護士ランキング」(危機管理分野)1位の國廣先生の著書です。
本書は法務にとって、とても示唆に富む内容になっています。
本書は一般的なマニュアル本ではありません。
コンプライアンス活動をこれだけやっておけば良いというマニュアルが欲しければ他の書籍のほうが向いています。
企業内で本書の内容の実践まで法務が引っ張っていけるかと言われると厳しい面があるかと思いますが、過去コンプライアンス担当であった私にとって本書の指摘は頭を揺さぶられるものがありました。
また、過去の不祥事の事例をもとに展開しているので圧倒的に読みやすく、わかりやすいという良い点もありました。
事例がかなり具体的に記載されているので、面白いです!
2.法務に役立つポイント①~新たなコンプライアンスの視点
それでは、以下、心に残った法務に役立つポイントを記載していきます。
まず、最初にコンプライアンスの形式主義や形骸化、コンプライアンス疲れを指摘しています。
私もコンプライアンス委員会を立ち上げたときに、どんな議題があるかネットで検索していたら、一部上場企業のコンプライアンス委員会の議事録が公開されており、見たところ、議題2つで、議事録が3行というものでした(形骸化の典型)。
日本企業の「空気」「同質性」という指摘もしており、誰に強制されることなく、まわりに合わせて行動していたら、全体的にコンプライアンス違反の状態になってしまった、犯人がいないという指摘も、あるあるだなと納得できました。
そして、現在、「コンプライアンスは法令順守にとらわれず、広い概念を~」と言われていますが、著者はそれ以上にコンプライアンスの主戦場はレピュテーションリスクと言い切り、社会常識よりも消費者がどう見るかというところまでコンプライアンスの定義を広げています。
3.法務に役立つポイント②~社員一人一人が考えるコンプライアンス
コンプライアンス違反の対策としては、「プリンシプルベース」「インテグリティ(誠実性)」を提示しています。
細かいルールではなく、原理原則(プリンシプル)を示して、どのように行動するかは現場の判断に任せるという手法です。
この原理原則は、良い車を作りたいという入社時の想いであったり、今やろうとしていることを家族や子供に説明できるか(※1)、お天道様が見ている(※1)といった、社員一人一人の意識の問題、自分の頭で考えるコンプライアンスを提言しています。
納得性は高いものの、法務としてどうやってコンプライアンス施策に落とすのか迷うところです。
ただ、法務としては、どんなルールを作成しても、どんな研修をしても、悪意者(※2)にはかなわないという意識を持って、コンプライアンス施策を検討することを理解させてくれた良書だと思います。
自社にこんな悪いことをする社員はいないだろうという前提はダメです
※1
著者の前作『それでも企業不祥事が起こる理由』(日本経済出版社)から抜粋
※2
これも上記の著作にある、個人情報保護法研修を実施し、確認テストでも満点を取った社員が、借金返済のため顧客情報を名簿買い取り業者に漏洩した事例。
4.カスタマーレビュー
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