法務を目指しているIT関連職種(以下、IT担当)の方へ、将来法務になったときにきっと役に立つ、IT担当のうちにできることを記載していきます。
それでは見ていきましょう。
1.ITに関する契約書を深く知る
システム開発の検収をめぐって自社とシステム開発会社と揉めたことがありました。
システム開発委託契約書を確認したのですが、何を指すのかわからない用語が多く、システム部門の方に聞きながら読み解いていったという記憶があります。
多くの法務はIT用語に精通している方が少ないため、ITに関する契約書は法務でも理解するのが難しいものとなっています。
その他、システム保守契約や、ソフトウェアライセンス契約、SLA(Service Level Agreement)などITに関する契約は様々です。
もし、自社が新たなIT関連契約を締結するという場合に、IT担当の方も契約締結業務に参加して欲しいと思います。
IT担当の方なら、検収や納品でトラブルになるケースに詳しいと思います。
法務に協力してトラブルにならないような契約書を作成してください。
多くのIT関連の契約にかかわることにより、将来、特にIT企業の法務になったときに、きっと役に立つものになると思います。
IT用語が法律用語に変換されているのでわかりにくいです
2.ECサイトの規制事項を深く知る
自社でECサイトを持っている企業も多いと思います。
ECサイトの運営は特定商取引法の規制があります。
特定商取引法が改正され(2022年6月1日施行)、ECサイトにおいて表示しなければならない事項の拡大等が追加されました。
その他、通信販売に関するものだけでも以下の規制があります(一部省略)。
・広告の表示すべき事項(第11条)
・誇大広告等の禁止(第12条)
・未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止(第12条の3、第12条の4)
・特定申込み(※)を受ける際の表示すべき事項(第12条の6)
※インターネット通信販売は該当します
・解除妨害のための不実告知の禁止(第13条の2)
・顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止(第14条)
自社のECサイトの表示事項やあわせて利用規約、約款を確認して、不足があったら、法律違反にならないように上司や法務に提言してください。
法律に強いIT担当の方は少ないと思いますので、そのような提言をすることで、一目置かれると思います。
この点については、消費者庁の特定商取引法ガイドのHPがわかりやすく解説しています
3.個人情報データの取り扱いに精通する
今や個人情報を取り扱わない企業はないと言っても過言ではありません。
しかも、今や取得した個人情報はデータとして保管されていることがほとんどだと思います。
個人情報保護法が改正されて(2022年4月1日施行)、ウェブサイトの閲覧履歴やサービス利用履歴(Cookie等)も個人関連情報として保護されることとなりました。
最近、ホームページにアクセスするとCookieの同意を求められるケースが増えているのはその改正に対応するためのものです。
私が法務のころ、本改正のポイントを社内に展開するために確認していたとき、いったいこういったウェブ関連の履歴はどういった管理をしているのか、ぜんぜん想像がつかなかったことを覚えています。
改正ポイントをお伝えして、IT担当の方とCookieの同意の文章を考える対応をしました。
IT担当の方は自社システムの知識を活かして、個人情報保護法が求める個人情報の取り扱いを自社のシステムでどのように遵守しているかを確認し、法律とシステムを結びつけて理解して欲しいと思います。
4.ISO27001やプライバシーマークの事務局を経験する
IT企業では、ISO27001(ISMS、情報セキュリティマネジメントシステム)やプライバシーマークを取得していることも多いと思います。
これらは定期的な更新が必要なため、事務局を設置して対応にあたっていると思います。
対応にはITの知識が必要なため、IT担当の方を中心に構成されるところが多いですが、この事務局に積極的に参加してください。
ISO27001の要求事項に情報セキュリティに関連する法律(ガイドライン含む)や規制の遵守を求められており、それらを遵守するための管理体制を策定しなければなりません。
3.にも記載しましたが、不正アクセス禁止法などの情報セキュリティに求められている法律を理解し、それを実際のシステムにどう反映しているかという具体的な仕組みを知ることができます。
法務でこのような知識を有している方は少ないと思います。
IT企業における法務はITに関する知識も必要であり、将来法務についたときにきっと役立つものになります。
また、事務局はISO27001の維持のために、情報セキュリティに関連する部署に対して、マネジメントシステムが常時機能するようなマニュアルの策定サポート、関連部署に対する内部監査計画とその実施、トップマネジメント(社長やシステム部門長等)に対するインタビュー、更新審査準備、更新をする審査登録機関との折衝など、経営層を含めた全社的な業務になります。
こういった各部署と連携した経験も法務になったときに役立つものになると思います。
私は総務時代にISMSプロジェクトに参加しました!
5.知的財産権の知識を持つ
最近はAI技術も進化し、IT関連の特許申請も増えていると思います。
特許申請の準備の機会があれば積極的に手を挙げてください。
私も商標権の申請は海外を含めて経験があるのですが、特許については理系の知識がかなり必要になるため、経験はありません。
今でも、もし機会があれば挑戦したい分野です。
特許権については専門の弁護士もいるくらい特化した分野で(池井戸潤「下町ロケット」など)、特許権の申請を経験して知識を深めておくことで、他の法務との差別化をはかることができます。
6.まとめ
法務を目指す上で、IT担当の方が今できることは以下の通りです。
IT担当の方の業務は一見、法務には遠いと感じるかもしれませんが、上記に記載した通り、将来法務になるために担当したい業務は多いです。
一般の法務の方はITや理系の知識に疎いため、このような知識を法務の業務に活かすことができればとても有利になると思います。
これからもITと法務の関係性は増大すると思われます