取締役会とならぶ重要な機関運営の一つが株主総会の運営になります。
何回も株主総会を重ねてきた大企業は法務が事務局リーダーになるということは少ないでしょうが、IPO直後のベンチャー企業などは法務に事務局リーダーを任せて、会社法に違反しないような運営を望むことも多いかと思います。
法律的な側面は弁護士の書籍等を確認いただくとして、私は実務担当者側からの具体的な業務を見ていきたいと思います。
1.株主名簿管理人である信託銀行との連携
ここでは、何回も株主総会を重ねてきた大企業ではなく、IPO直後などで株主総会の経験が少ない企業において、法務が株主総会運営体制を策定するという前提で記載します。
上場会社では株主名簿管理人である信託銀行をパートナーとして株主総会までの手続きを進めることになります。
信託銀行はいろいろな企業の株主総会を経験しており、下記にも記載しますが、株主総会のマニュアルや想定問答集のひな形など株主総会を運営する上で必要な資料をいただくことができます。
信託銀行の担当者と良い協力関係を築いていただきたいと思います。
私も総会が近づくとしょっちゅう電話していました!
2.総会当日までのスケジュールの確認
信託銀行の担当者とまず確認するのは総会当日までのスケジュールです。
信託銀行のシステムでスケジュールを管理することになります。
このスケジュールこそがとても重要で、このスケジュールに沿って総会の準備を進めていきます。
①決算日(基準日)
株主総会に出席する株主を確定する基準日となります。
経理担当にとっては大変な年次決算取りまとめが始まります。
決算取締役会までにも監査役会とのやり取りが発生しますが、会社法に沿って、進めていただきたいと思います。
※6月総会の場合は3月31日
②決算取締役会
通常ですと、株主総会の前月の取締役会が該当します。
事業報告等計算書類の承認と、株主総会招集の承認が決議されます。
※同上5月15日前後
③招集通知の校了日
招集通知の校了とは、招集通知の全ての校正(チェック)が完了して、これ以後は修正できない期限となります。
地味な日程だと感じるかもしれませんが、招集通知の議案部分についてはほぼ確定している反面、事業報告部分の細かなチェックや修正は財務経理担当やIR担当が必死で作業しています。
校了日以降は修正ができないことから、何としてもこの日までに間に合わせなければなりません。
※同上5月31日前後
印刷会社と頻繁にやり取りします!
④招集通知の発送日
会社法で招集通知は、株主総会当日の2週間前までに発送する必要があります。
土曜総会を開催する企業は注意が必要なので、信託銀行担当者や顧問弁護士に確認して、会社法違反にならないようにしてください。
同時に招集通知をインターネットで開示する企業が多いです。
インターネット開示については、最近の会社法の改正により変更があったところなので、詳細は信託銀行の担当者に確認して、確実に開示してください。
※同上6月上旬
⑤株主総会リハーサル
株主総会のリハーサルを実施します。
複数回実施することもあります。
議長の予定の調整もあるので、早めに日程は確定しましょう。
※総会前日まで
⑥株主総会当日
株主総会開催日です。
会場の予約は総会が終わったら、すぐ来年の予約をするぐらいのペースでいいと思います。
※6月総会の場合は6月下旬
⑦剰余金の配当日、臨時報告書の提出日、有価証券報告書の提出日
剰余金の配当日は機械的に確定しますが、株主総会の議決権行使の状況を報告する臨時報告書や、有価証券報告書の提出が総会後に発生します。
スケジュールさえ確定すればその期限に合わせて対応できます!
3.招集通知(株主総会参考書類含む)の作成
招集通知を作成する上で必要なのは議案の確定です。
通常の株主総会では、報告事項として、
1.「事業報告の内容、連結計算書類の内容ならびに会計監査人および監査役会の連結計算書類監査結果報告の件」
2.「計算書類報告の件」の2件、
決議事項として、
第1号議案「剰余金の処分の件」
第2号議案「取締役〇名選任の件」
の2件がデフォルト(取締役の任期が1年の企業が多いため)で、必要がある場合に、「監査役〇名選任の件」、「定款一部変更の件」が発生します。
信託銀行担当者や顧問弁護士に確認して、くれぐれも議案の漏れはあってはなりません。
2022年の株主総会では、ほぼどの企業も株主総会資料の電子提供制度に関する定款一部変更を決議したと思います。
招集通知にある「株主総会参考書類」についても、取締役のスキルマトリックスを入れるなど各企業で工夫していると思いますが、このあたりは信託銀行の担当者に依頼すれば他社の招集通知記載例を提示してくれるので、どんどん相談してよい招集通知にしてください。
監査役の任期は要注意です!
4.事業報告の作成
事業報告は主に財務経理担当やIR担当が中心になって作成すると思いますが、法務も協力する箇所もあります。
役員の取締役会の出席状況や、役員の責任限定契約やD&O保険の内容、内部統制状況などは法務が文案を出す場合もあります。
5.株主総会事務局体制の策定
株主総会事務局の前日から当日の人員配置を計画します。
私は、Excelファイルの縦軸に時刻を記入し、横軸にスタッフ名を並べて、どの時間に誰が何を対応しているのかを一覧化していました。
例えば事務局トップだった私のスケジュールですが、前日の場合、〇〇時に資料や備品搬入の立ち合い、〇〇時に壇上の設営、〇〇時に前日までの議決権行使状況確認という具合です。
当日は、〇〇時に事務局集合、最終ミーティング、〇〇時に総会開始時の議決権の確定、〇〇時に司会サポート、〇〇時から〇〇時に壇上にて議長サポート、株主総会終了後、〇〇時から総会後取締役会といった感じです。
当日の大半の時間を案内版を持って誘導するスタッフもいるかもしれません。
この一覧表があることで、当日のイレギュラーな人員配置変更にも対応することができます。
このあたりはお問い合わせいただいたら相談にのりますよ!
6.議長および司会シナリオの作成
議長のセリフ、司会のセリフはすべてシナリオにしておきましょう。
セリフを読むことを好まない議長(社長)もいるかもしれませんが、いざという時、セリフがあると安心感が違います。
忘れずに準備しておきたいのがイレギュラーなケースが発生したときのシナリオです。
イレギュラーなケースに不適切な対応をして、後に株主から決議取消しの訴えが提起されないようにしてください。
イレギュラーなケースとしては以下のようなものがあります。
- 動議が提出されたケース
- 動議なのか意見なのかわからないケース
- 質疑応答時以外に質問をいただくケース
- 延々と話して終わらないケース
- 騒いで他の株主に迷惑をかけるケース
- 退場を指示するケース
このようなイレギュラーなケースを想定したセリフを準備してください。
信託銀行の担当者からはイレギュラーなケースを含めたシナリオのひな形はいただけるはずです。
このようなイレギュラーなケースが発生した場合には、議長だけで進行するのではなく、壇上の顧問弁護士や事務局と協議の時間をいただくようなシナリオにしてください。
7.投影資料の作成
現在、株主総会を開催する企業の大半はパワーポイントなどのスライド資料を投影して進行しています。
通常は、議案にしたがって投影資料が進行しますが、報告事項で事業報告を報告する場面では、事業報告をサマリーして投影したり、図やグラフを利用して見やすくしたり、事業報告に記載していないことを追加で説明したりといろいろです。
議長が話すのではなく、事前に録音した音声を流すというパターンもあります。
ここも信託銀行の担当者と相談して他社事例を確認しながら、それぞれの企業に合わせた投影資料を作成してください。
法務が投影資料のすべてを作成することは少ないかもしれませんが、投影資料の決議事項や採決の箇所はかならずチェックしてください。
電子音声のような人工的なカタコト音声も聞いたことがあります(笑)
8.想定問答集の作成
株主からの質問に回答するための想定問答集の作成も必要です。
長年、株主総会の開催実績を積み重ねている企業は昨年度の想定問答集の追加修正でよいかもしれませんが、上場1回目の株主総会の場合はそもそも想定問答集はありません。
そのような場合、信託銀行の担当者に相談してください。
信託銀行は毎年想定問答集のひな形を作成しているので、それを受領して自社の事情に合わせてリファインしてください。
けっこう膨大な数の想定問答があるので、自社に関係ない部分は削除し、実際に総会で株主から質問を受けたときに使えるものを準備してください。
もちろん株主から想定問答以外の質問があることは多々ありますし、質問すべてに答えを用意することは不可能です。
想定問答集以外からの質問も多かったです
9.リハーサルの実施
総会前日までにリハーサルを実施します。
リハーサルの程度も各企業ごとに差異はあると思いますが、一般的には議長が株主総会の進行を最初からリハーサルします。
映像の切替のタイミングや、議長を含めた役員の動きを確認します。
質疑応答は株主の役を信託銀行の担当者が演じていただき、質問をして、回答をするという流れです。
リハーサルでは想定問答集にあるような質問をしてもらいましょう。
顧問弁護士にも立ち会っていただく場合も多いです。
私の経験ではリハーサルは前日が多かったです
10.前日の会場準備
通常、前日に資料や備品を搬入し、会場を設営します。
一般的な持参物については、信託銀行の持参物一覧表がありますが、当日あまり使用しないものもあります。
ただ、第1回目の株主総会の場合は、何が起きるかわからないので、上記の一覧表にそって準備すれば間違いはありません。
会場設営に際し、株主が手をふれる可能性のあるものは、ケガをしないような配慮が必要です。
最近では株主総会のライブ配信や後日オンデマンド配信する企業が増えています。
自社で撮影する場合も、外部に委託する場合も前日の撮影機材等の準備が必要になります。
そして、前日の18時以降に、事前に返信用葉書ないしインターネットによる議決権の行使状況を確認します。
前日までの行使状況を集計しておき、当日出席した株主の数を足すようにしていました
11.当日の流れ
いよいよ株主総会当日です!
①受付
株主の受付については、事前に信託銀行の担当者からレクチャーがあります。
議決権行使書面を持参しなかった株主の本人確認や、名前の記入、受付システムへの入力の方法など、対応すべきことは多いです。
コロナの影響もあり、出席する株主の人数は減少したとはいえ、受付には複数人を配置して対応してください。
受付まわりのスタッフには全員信託銀行からレクチャーを受けるようにしてください。
事前に依頼した所轄の私服警察官が来場する場合もあります。
受付は重要です!
株主総会全体の流れを理解しているスタッフを配置しましょう
②議決権の数の確認
開会時間に近づいたら、ある程度決めた時間をもって、議決権の集計を締め切り、事前行使された議決権個数と出席株主数、出席株主の議決権の個数を確認し、定足数が充たされたことを確認(一般的にはこの段階で定足数を充たしている場合が多い)し、議長のシナリオに記入します。
③開会宣言と株主の出席状況の報告
議長が上記の②で確認した定足数を充たしていることを報告し、適法に成立した株主総会の開会を宣言します。
④監査役の監査報告
通常、常勤監査役が発言します。
監査役のセリフは多くないですが、監査役ともシナリオの確認は必要です。
⑤計算書類・連結計算書類の説明
ここは映像や音声データを利用することが多いと思います。
映像機器の操作ミスに気をつけてください。
⑥全決議事項の説明と一括審議方法によることの了承
信託銀行の株主総会マニュアルにはいろいろな審議手順と採決手順の記載がありますが、一般的な株主総会では一括審議方法を採用することが多いように思います。
一括審議方法とは、すべての決議事項の議案を説明し、報告事項および決議事項に関わる一切の質問を受け付けます。
その後、採決に進むという流れを株主に拍手で了承をいただきます。
⑦質疑応答
最近はライブ配信や録画をしている関係上、株主の株主番号だけ確認して、名前を名乗っていただくことは任意としている企業も多いのではないでしょうか。
事前に作成した想定問答集が役に立つと思いますが、当然ですが、想定外の質問もあります。
議長が即答できない場合の対処法は必ず用意してください。
具体的には、「本質問に関して協議しますので、お時間をいただきます。」と断りを入れて、壇上の顧問弁護士やその他の役員と協議して回答します(もしくは回答を拒否)。
議長シナリオの箇所でも記載しましたが、動議などのイレギュラーなケースも想定して準備してください。
私は質疑応答が株主総会の山場だと感じており、質疑応答が終われば、かなりほっとして、疲労感が押し寄せてきました。
質疑応答が終われば、株主総会が終わったのと同然だと思っていました!
⑧採決と閉会宣言
質疑応答が終われば、一件ずつ議案の採決を取ります。
採決の方法については、多数の企業では拍手で採決すると思いますが、採決が読めない場合の方法となると、そこは信託銀行の担当者や顧問弁護士に相談するレベルです。
採決が終われば、新任役員の挨拶がある場合もありますが、なるべく早めに「目的事項を終了したので、閉会といたします」と宣言します。
株主総会が無事成立したことを確定します。
何か追加で説明がある場合は、閉会宣言の後がよいと思います
12.まとめ
ここまで、以下の株主総会運営の具体的な運営を見てきました。
- 株主名簿管理人である信託銀行との連携
- 総会当日までのスケジュールの確認
- 招集通知(株主総会参考書類含む)の作成
- 事業報告の作成
- 株主総会事務局体制の策定
- 議長および司会シナリオの作成
- 投影資料の作成
- 想定問答集の作成
- リハーサルの実施
- 前日の会場準備
- 当日の流れ
株主総会の運営は、前準備さえしっかりしておけば、当日の進行はスムーズです。
イレギュラーな対応が求められるのは質疑応答ですが、これも想定問答集やシナリオである程度準備できます。
型をしっかり作成しておけば、あとは事案に応じて臨機応変に対応するという、法務の他の業務にも共通するところだと思います。
また、株主総会の運営は自部署以外の協力が必要になります。
役員とのコミュニケーションも発生します。
法務といえども、日頃からの他部署の社員や役員とのコミュニケーションを構築しておくことによって、株主総会のような全社的なイベントにもスムーズに協力を得ることができると思います。
今後は株主総会もDXの流れを受けて、株主総会資料の電子提供やインターネットによる議決権行使、場所の指定のないバーチャルオンリー株主総会の開催などが進んでいくものと思われます。
現在でもハイブリッド型の株主総会で、株主総会開催時にインターネットでの質問や議決権行使を可能にする「参加型」の株主総会を開催している企業もあります。
法務としては、なるべく運営方法は変更したくないという意識は働きますが、株主は何を求めているのか、株主に投資すべき価値のある企業と思ってもらうには何がベストかを考え、会社法や経済産業省や法務省のガイドラインを確認しながら、新たな運営方法を検討して欲しいと思います。
法務でも株価や時価総額の向上に貢献できます!